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【彼女・彼氏】黒髪の姫と恋に落ちた【6】【告白体験談】

カテゴリー:彼女・彼氏との告白体験談
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――黒髪の四阿、夜

男「……三箱、四箱、五箱。っと」

男(こんなもんでいいか?

 ……っても、もう梅の季節じゃないしなぁ。

 何か新しいデザート考えないとな)

黒髪娘「男殿」ぽそり

男「うわぅっ!?」

黒髪娘「……こんな夜更けに」

男「って、起きてたのか。黒髪」

黒髪娘「?」

男「なんだ? どうした?」

黒髪娘「それは何だ?」

男「何でもないぞ?」 さささっ

黒髪娘「……」ひょいっ

男「何でもないってば」




黒髪娘「梅饅頭ではないか。また作ったのか。

 わたしだって食べたいのだからくれれば……。

 ……中納言家あて? こっちは……梨壺あて?」

男「……むぅ」

黒髪娘「なんでこんなにあるんだ?

 あちこちに送ろうとして……」

男「それは、その。さ。……ほら、例の歌会の時に

 あちこちの雑色さんや女房さんに知り合いが出来たから。

 お礼状というか。――つまり、付き合いだ」

黒髪娘「付き合いならば、雑色当てにすれば良いではないか」

男「ほら。あっちの主人の顔も立てないと」

黒髪娘「……」じとぉ

男「……」

黒髪娘「……最近編纂が忙しくて藤壺に

 泊まることも多かったから気が付かなかったけれど

 もしかして、ずっとやっていたのか?」

男「ずっとじゃないぞ」

黒髪娘「でも、初めてじゃないんだな?」

男「まぁ、……うん」

黒髪娘「なんでなんだ?」

男「判ってるなら聞くなよなー」

黒髪娘「判ってる“から”聞きたいんだ」

男「……」

黒髪娘「男殿……」とてっ

男(近い。うう。こいつ、ちっさい。

 腕にすっぽり過ぎて、こ、困る……)

黒髪娘「髪の毛に、触ってくれ」

男「……」

黒髪娘「触ってもらうために、わたしは何をすればいい?」

男(そういう瞳でこっち見るなよなぁっ!?)

黒髪娘「……」じぃっ

男「わかった。触るからっ」

黒髪娘「ん……」

男「……」

なでっ

黒髪娘「……んぅ」

男(何でこんなに緊張してるんだよ、おれっ)

黒髪娘「ずっと寂しかったぞ……」

男「……」

黒髪娘「嫌われたと思ってた」

男「それはない」

黒髪娘「……」

男「……」 なで、なでっ。

黒髪娘「いつぞやは、済まなかった。

 わたしが、子供だったから」

男「そんなこと、ないぞ」

黒髪娘「いや男殿の優しさにつけ込んだのだ。

 責められても当然だ。悔いている」

男「黒髪はちょっと自罰的すぎる。

 謙虚なのは良いことだけど、

 行き過ぎると身動き取れなくなるぞ。

 もうちょっと、ゆるくても良いと思うな」

黒髪娘「ゆるすぎて引きこもったのだ」

男「きつすぎて引きこもってたくせに」

黒髪娘「……言い合うのはいやだ」きゅ

男「判ったよ」

男「ごめんな。なんか、こう。

 ……こっちも自己嫌悪とかあってさ。

 黒髪とちゃんと話、出来なかったわ」

黒髪娘「……」

男「俺もあんまり大人じゃない。つか、がきだから」

黒髪娘「男殿は、いつも優しい。

 いまだって、根回しをしてくれていた。

 わたしの歌集編纂に横やりが入らないように

 してくれていたのだろう……?」

男「むー」

黒髪娘「わたしは今の今まで、

 歌会の招待が減った理由も、

 わたしに対する風当たりが弱まった理由も

 桐壺様が機嫌を直した理由も……

 考えもしなかった」

男「それは……あれじゃね?

 右大臣の実家のお陰じゃないか?」

黒髪娘「そうかもしれないが。男殿が優しいのは本当だ」

男「ん。黒髪の絹髪は、やっぱりサラサラだ」

黒髪娘「姉御殿にいただいた桃のしゃんぷうなのだ」

男「そか」

黒髪娘「うむっ」にこっ

男「元気か? ちゃんと食べているか?」

黒髪娘「元気だ。ちゃんと食べているぞ」

男「みんなと仲良くやっているか?」

黒髪娘「仲良くしている。二の姫が……。

 二の姫というのは中納言の二番目の姫で

 才色兼備でわたしの友達で13歳の

 本当に美人で生意気なすごく可愛らしい令嬢なのだが」

男「散々だな」ぷくくっ

黒髪娘「その二の姫が、編纂を手伝ってくれている。

 たいした才媛なのだ。和歌だけならわたしを越えるかも」

男「へーえ」

黒髪娘「だから、友も、出来たのだ」

男「うん」

黒髪娘「男殿」

男「ん?」

黒髪娘「いまは、請わないで云える。

 ――温かき君が腕(かいな)に身を投げて

  捧ぐるはただこの胸の花」

男「それは?」

黒髪娘「男殿の世の言葉で編んだ、わたしの歌。

 わたしが男殿に捧げられる、

 わたしのこころ。

 ――わたしは男殿のことが好きだ。

 男殿には男殿の世があるのは、知っている。

 それを男殿はわたしより、よく知っていた。

 だから、わたしを遠ざけてくれたのだろう?」

男「……」

黒髪娘「わたしは男殿を困らせる子供だった。

 済まない。でも……。

 でも……」

男「……」

黒髪娘「いっぱいあってなは、

 るどるふを、

 故郷に帰すために

 文字を教えてあげたのかな……。

 ――るどるふを、

 可哀想におもったのかなぁ」 ぽろっ

男「……黒髪。あの絵本」

黒髪娘「読んだ。

 何回も、何十回も。

 だって男殿がくれたものだから。

 ――いっぱいあってなは、

 るどるふが

 可哀想な子だったから

 一緒にいて字を教えてあげたのかなぁ」 ぎゅっ

男「……」

黒髪娘「小さい黒猫は、

 いっぱいあってなのこと

 好きだったと思う。

 わたしも、男殿は、好きだ。

 何百も恋の歌を知っていても

 上手に言えないけれど、

 本当に好きだ。

 好きなんだ。 

 だから、教えて欲しい」

男「うん」

黒髪娘「他には何も要らないから。

 何もおねだりしないから。

 本当のことだけを教えて欲しい。

 男殿は、わたしのことを好いてくれていないのか?」

男「……好きだよ」

黒髪娘「――」 じわぁっ

男「大好きだよ」

黒髪娘 ぎゅぅっ

男「だって、お前。頑張り屋じゃん」

黒髪娘「……」

男「初めにあった時から大好きだったよ。

 本当はずっと人と触れあいたかったくせに。

 爺ちゃんのこと泣きはらすこと心配してたくせに。

 そのくせ“気持ち悪く思うだろうから”なんて

 俺のことを気にかけて帰らせようとしたり」

黒髪娘「それはっ」

男「お前、最初から頑張ってたじゃん」

黒髪娘 ぎゅっ

男「おまけに小さいわ、華奢だわ、温かくて良い匂いだわ

 放っておくとどこまでも本に溺れてるわ、賢くて生意気だわ

 そのくせどっか抜けてて世間知らずで野暮でお馬鹿で……」

黒髪娘「ううっ。う~っ」

男「もうねっ。あー、わかったわかった。

 俺は天下のロリコン様だ、こんちきしょうっ」

男「これで判ったか。ふんっ」

黒髪娘「判った。ろりこんについては後日調べる」

男「それは調べるなっ」

黒髪娘「んっ」 すっ

男「もう、良いのか?」

黒髪娘「うむ。約束は守らねば」 くすっ

男「約束?」

黒髪娘「“他には何も要らない”と……」

男「……」

黒髪娘「わたしは本当のことを得た。

 だから、もう平気だ。

 わたしの真実は、通じた。

 二の姫の、云うとおりだった。

 ――男殿」

男「うん」

黒髪娘「わたしは、男殿だけのものだ」

男「――」

黒髪娘「祖父君にかけて、それを誓う」

――藤壺、編纂のための借り部屋

しずしず、さらり。

二の姫「おはようございます。

 今朝は風が涼やかで。あら、黒髪の姫」

黒髪娘「ん? おはよう。もう作業を始めていたぞ?」

二の姫「今朝はずいぶんお早いのですのね。

 まさか、またお泊まりになられたのではないでしょうね?」

黒髪娘「いいや、帰ったぞ」 てきぱき

二の姫「……」

黒髪娘「……」 てきぱき

二の姫「何か良いことでもあったのですか?」

黒髪娘「へ?」 びくっ

二の姫「……」

黒髪娘「え……。や、その」 かぁっ

二の姫「ええ、ええ。判りましたとも。

 これ、これっ!」

お付き女房「はい、二の姫」

二の姫「人払いの上警備を」

黒髪娘「や。そこまですることはないではないか」わたわたっ

二の姫「いーえっ。重要なことです」

黒髪娘「いや、しかし。我らは撰者として

 歌集編纂の業務があり、その仕事は一刻の」

二の姫「友女房?」

友女房「は、はひっ!?」 びくっ

二の姫「昨晩、姫はお戻りに?」

友女房「はい。四阿の方へと深更おもどりになり、その」

黒髪娘「と、友っ。裏切るのかぁ!?」

友女房「い、いえ。めっそうもないっ!

 しかし、そのわたしとしても、姫の事が心配で……」

二の姫「黒髪の姫」 ずいっ

黒髪娘「う、うむ」

二の姫「恋の歌を編纂するに当たる撰者が、

 恋を知らずにどうします。

 恋に迷う衆生の気持ちを、その機微を理解するのは、

 これ撰者としての務め。

 いわば業務の一環です。この会議はその知識を

 共有する重要なモノです」

黒髪娘「それは、その……知識を共有するのは

 大事なことだ。勉学の基本だ……けど」 もにょもにょ

――藤壺、緊急報告会議

二の姫「ふむふむ。それでどうなったのです?」

黒髪娘「だからわたしは確信したのだ。

 そのぅ、男殿は、わたしを助けるために骨折って

 いてくれていたのだと云うことを。

 それで……」

友女房「それで?」 ごくり

黒髪娘「その、男殿の肩口に……額をあてがい」

二の姫「身を寄せたのですね」 さらり

黒髪娘「身をっ!? ……う、うむ。

 まぁ、そうなる……かな」 かぁっ

友女房「……ううう。姫様、成長なさって」

黒髪娘「わたしは、その。

 寂しかったことや、

 嫌われていたと思っていたこと。

 反省していたことを告げた。

 男殿はそんなわたしを自罰的すぎると、許してくれた」

二の姫「ふむ」

黒髪娘「そして近況を報告して、編纂のことを伝え

 その……二の姫の話もした。男殿はそれを聞いて下さる間

 ずっとわたしの髪を撫でてくれていた」

二の姫「髪を。……そうですか」 にこにこ

黒髪娘「な、なぁ! もうやめにせぬか!?

 このような告白を強いられてはわたしの精神が持たぬ」

二の姫「いいえ、これは重要なことですっ」

黒髪娘「う、うううっ」

友女房 どきどき

二の姫「さぁ、続きを」ずりずりっ

黒髪娘「えーっと……なぜこのような。

 うううっ。

 わたしは男殿の世の言葉を用いて

 編んだ歌を詠み、その……恋心を伝えた。

 わたしの真心を。

 そして願った。ただ、知りたいと。

 男殿の気持ちを知りたいと。

 二の姫の言葉がずっと胸に響いていた。

 “真実であれば必ずや届く”と。

 それは、誠ということなのだろう?

 わたしはわたしの真心を精一杯に訴えた。

 哀れみや同情ではなく、ただ男殿の気持ちが知りたいと

 それだけが欲しいと」

友女房「……」ぐすっ

二の姫「……」

黒髪娘「他には何も求めぬから、ただ男殿の気持ちだけを。

 そして、そのぅ……。

 つまり、良い感じになったっ」 ぷいっ

友女房「ひ、姫。そこのところが大事なのではないですかっ」

二の姫「そこを詳しく聞かないと、

 何の意味もないではありませんっ」

黒髪娘「そんな事を云われても、む。むぅっ。

 何故そのようなことにことさら興味を抱くのだっ」

二の姫「興味がある方が当然です」

黒髪娘「くっ……」

二の姫「それでどうなったのです?」

黒髪娘「その……。好きだ。

 と。大好きだ、と云っていただいた……」 かぁっ

友女房「っ!」 ぱぁっ!

二の姫「芸のない返事ですね。

 東歌のような率直さは認めますが」

黒髪娘「そのようなことはないぞっ!

 男殿はちゃんとわたしの髪を指先でくしけずりながら

 初めにあった時から大好きだった、と。

 小さくて、華奢で、温かくて、良い香で

 書に溺れるわたしも、賢しくて生意気なわたしも

 思慮が浅くて世間知らずで空気が読めない愚かなわたしも

 好きだと云ってくれたのだっ!」

二の姫「……哀れまれているのではないですか? それ」

黒髪娘「くぅぅっ……」 じわぁ

友女房「そんな事はありませんっ。

 姫には良いところがちゃんと沢山あります」

黒髪娘「そ、そうだ。男殿は……。

 その、わたしのことを――頑張り屋だから。

 最初から頑張っていたから、好きだと云ってくれた」

二の姫「あら。……まんざら判って無いわけでもないのですね」

黒髪娘「男殿はお慕いするにたる殿方だ」 むぅっ

友女房 ほろり

二の姫「その後どうされたのですか?」

黒髪娘「ん。思いは通じた。

 わたしは礼を述べて、身を離した」

友女房「え」

二の姫「……」

黒髪娘「望んだのはこの気持ちを伝えること。

 男殿の気持ちを知ること。全ては叶ったから

 それでわたしは十分だ」

二の姫「どうして、ですか?」

黒髪娘「……」

二の姫「尚侍とは言え、嫁することも

 不可能ではありますまい。特にこの時点において、

 黒髪の姫は帝の求愛を受けて居るわけでもなければ

 東宮付になっているわけでもない。

 確かに宮中は大騒ぎで、

 面倒なことにはなるでしょうが……」

黒髪娘「面倒などは、何ほどのこともない」

二の姫「ではなぜ?」

黒髪娘「――」

二の姫「官位が問題なのですか?

 それならば右大臣家で取り立てれば良いではありませんか。

 その外聞が悪いのならば、我が家でも構いません。

 そうです。中納言家ならば問題はありますまい?

 その方には我が家の養子に来ていただき、

 我が家に黒髪の姫を娶るというような形に」

黒髪娘「違うのだ」

二の姫「何が違うのです?」

黒髪娘「神仙の類。狐狸、妖。

 道士か修験者……外つ国の、稀人。

 そのような存在なのだ、男殿は。

 我らにとっての全世界であるこの宮中は

 男殿にとっては全てではなく、狭い……。

 その狭い庭に、わたしの我が儘で縛り付けることは出来ぬ」

友女房「……姫」

黒髪娘「一夜限りの情けを、とも願うけれど

 それはわたしの誠を歪めるようにも思う。

 そのぅ……男殿は、優しいから」

二の姫「……はい」

黒髪娘「わたしを足手まといに感じても、

 云わないでいてくれる。それが、心苦しい」

友女房「……」 ちらっ

二の姫「詰めが甘いような気もしますが

 それを言うのも雅に欠けますよね……判りました。

 私は祝福しますよ?」

友女房 はらはら

二の姫「藤壺の君は同じ気持ちでおられても

 立場上、云えますまい。だから私が言います。

 ひとときの恋でも恋は、恋。祝福します」

――牛車の中、鴨川のほとり

ぎぃぃ、ぎぃぃ。

男「何で牛車なんだ?」

黒髪娘「この世界での標準的な乗り物だ。

 文句は無しにしてもらいたい」

男「うん。でもさ」

黒髪娘「なんだ?」

男「なんでこの位置な訳?」

黒髪娘「男殿と一緒にいる時は、

 こうやって抱えてもらうのが一番良いと学んだ」

男「むぅ」

黒髪娘「不快なら考慮するが?」

男「いや、不快なんて云うことはないんだけどさ」

黒髪娘「なら良いではないか。

 それに牛車というのはなかなかに不安定だ。

 一緒に乗るのならば、くっついていた方が良い」

男「そうかもしれないけど……」

黒髪娘「私は嬉しいぞ」

男「へ?」

黒髪娘「男殿と、こうして触れあっているのは、嬉しい。

 軽くもたれかかって、男殿の体温を感じているのは

 信じ切れないくらいの贅沢だ」

ぎぃぃ、ぎぃぃ。

男「……黒髪さ」

黒髪娘「なんだ?」

男「このあいだからむちゃくちゃストレートじゃないか?」

黒髪娘「すとれいととは私の髪のことではなかったのか?」

男「いや、違くて。……率直とか素直とか言う意味」

黒髪娘「それならば、私は物心ついた頃から

 すとれいとだ。腹芸など出来ないぞ」

男「それはそうなんだけどさ」

黒髪娘「うむ」 にこっ

男(……なんか、黒髪の破壊力増してるよな。

 こうやって抱えていると、すごく可愛いぞ。

 手を出してない俺を褒めて欲しい……)

黒髪娘「ん」 くてっ

男(考えてるそばから~っ)

黒髪娘「なんだ。反応が薄いな」

男「まぁな。大人だからな」 だらだら

黒髪娘「そうか……」

男「うん」

黒髪娘 かぷっ

男「っ!」

――ドキドキドキドキドキ。

黒髪娘「……」ちらっ

男「な、何してるんだ? 黒髪」

――ドキドキドキドキドキ。

黒髪娘「囓ってみた」

男「……」

黒髪娘「わたしの方ばかりときめいて

 どきどきしているようで、それはちょっと不服だ」

男(こっちは血流がオーバードライブする

 命の危険が目前にあったっつーのっ!)

黒髪娘「男殿は冷静すぎるぞ」

男「そんなことないけどな」 ぷいっ

黒髪娘「もしかして、うっとうしいか?」

男「いいや、そんな事はない」

黒髪娘「嬉しいな」 もふっ

男(この、抱きかかえると

 あごの下にすっぽり入るサイズが犯罪的だぁ)

黒髪娘「夜風は涼しいな」

男「そうだな」

ぎぃ、ぎぃ……。

黒髪娘「鴨川へりのあたりは、虫の音も美しいだろう?」

男「うん」

黒髪娘「今宵は雲もない。星が綺麗に見えると思うのだ」

男「デートか?」

黒髪娘「うむ。でえとだ」

男「やっぱり、素直になった気がするよ」

黒髪娘「それは……そのぉ。

 ほら、この間の。

 あれだ……。

 両……想いなのだから。つまり、気持ちを。

 告げあったわけだから……」

男「ああ。う、うん(ううう、すげぇ恥ずかしい)」

黒髪娘「……それに」

男「?」

黒髪娘「じき、編纂も終わる……」ふわっ

男「……?」

黒髪娘「いまは編纂が忙しいから、

 こうして男殿にあって元気を補給しているのだ」きゅっ

男「大変なのか」

黒髪娘「うむ。でも、楽しくもある。

 和歌を、特に恋の歌を小馬鹿にしていた

 わたしの愚かしさに気が付いた。

 漢詩は高尚で、和歌が柔弱だなどと

 偏見以外の何者でもない」

男「うん」

黒髪娘「みな、勇気がある。

 切ない胸の内を必死に伝えようと振り絞る歌に

 よくもまぁ理知がないなどと考えていたモノだ。

 自分が恥ずかしい……」

男「そっか」 なでなで

黒髪娘「男殿の手は、優しくて……その」

男「ん?」

黒髪娘「好きだぞ」

男「お、おう」

ぎぃ、ぎぃ……きっ。

かたり。

黒髪娘「ほら、星だ」

男「うん」

黒髪娘「あれは、千年後も変わらぬのだろう?」

男「ああ、変わらない」

黒髪娘「あれが織女だ。残っているか?」

男「ああ。おりひめと、ひこぼしだろう?

 小学校で観察させられたぞ」

黒髪娘「うむ。鼓星(つづみぼし)も見ゆるぞ」

男「あ、こら。そんなに乗り出すなよっ」

黒髪娘「抑えておいてくれねば、困る」

男「勝手なことを」

黒髪娘「良いのだ」にこっ

男「いいもんか」

黒髪娘「いまだけ」

男「――」

黒髪娘「いまだけは甘えさせてくれ」

――藤壺、編纂のための借り部屋

黒髪娘「やはり進行度順か……」

二の姫「しかし全体の構成を考えますと」

黒髪娘「それは、たしかに」

二の姫「はい……」

友女房「あのぉ、何のお話ですか?」

二の姫「歌集における歌の掲載順です」

黒髪娘「難題なのだ」

友女房「そうなんですか?

 いままでの歌集に会わせるだけではダメなのですか?」

二の姫「いままでの代表的な歌集は、まず序文があり

 その後、春、夏、秋、冬……と歌が続きます。

 この四季の部分は季節の移り変わりを目処に

 つまり、同じ夏でも初夏から始まるんです。

 更に続くのは哀傷歌、羇旅歌、恋歌、雑歌。

 なかでも量の多い恋歌は、恋の進展に応じた掲載順と

 なるのですが……」

黒髪娘「今回は四季の歌やそのほかの歌を廃して

 恋の歌のみに絞ってある。

 だから四季の深まりという順は関係がない。

 恋の進行過程順といっても、今回は歌が多すぎ

 その順番で並べると印象がちぐはぐになってしまう」

友女房「ちぐはぐ?」

二の姫「例えば穏やかにはぐくむ筒井筒の恋もあれば

 涙にかきくれる片思いの恋もありますよね。

 ただ“会いたい”と云う気持ちで並べてみても

 様々な恋の風景が入り交じってしまい、

 順に読むと分裂した印象になるでしょう」

黒髪娘「で、あるからして、時代順や歌人の名前順。

 いっそ歌い出し順……などと様々な様々な案を

 出しているのだが……。どれも一長一短でな」

二の姫「ええ。やはり、歌人の名前順はいただけません。

 そのようなことをしたら、どの歌人が何首載っているのか、

 余りにもあからさますぎますもの……」

黒髪娘「やはり、帝からのお声掛かりである以上、

 問題があるのだろうな。依怙贔屓に見えるのは、困る」

二の姫「ええ。かといって他の順序も……」

友女房「ええーっと」

二の姫「どうしたのです?」

黒髪娘「なにかあるのか? とも」

友女房「いっそのことですね」

二の姫「?」

友女房「男女交互なんていかがですか?」

二の姫「交互?」

友女房「ええ。男性の歌人も女性の歌人もいるわけですし。

 こう、交互にですね。掲載すると。

 ……色っぽくて、素敵なのではないかと」

二の姫「……」

黒髪娘「……」

二の姫「良いかも知れませんね」

黒髪娘「うむ、嫌みもないし。

 掲載順によって一首づつの、応答というか、

 組み合わせの妙が楽しめる」

二の姫「相聞のような艶やかさが望めそうです」

黒髪娘「でかしたぞ、友!」

友女房「あ。え!? い、良いんですかっ!? こんなので」

二の姫「良いではありませんか。秀逸な提案です」

黒髪娘「古代の歌人と今様の歌人の饗宴というのも

 見応えのあるものとなろう」

二の姫「そうですね。たしかに」にこりっ

黒髪娘「ああ、少しだけ見えてきた。

 きっと私にも伝えたいことがあるのだ。

 それが判るというのは、なんと幸いなことだろう」

――夜の都、二の姫の牛車

ぎぃっ。ぎぃっ。

二の姫(それにしても黒髪の姫……。

 明るくはなられたけれど、その明るさがどんどんと

 透明になられるのが気にかかります……)

   雑色「姫、まもなく四条大路となります」

黒髪娘「ええ、このままよろしくお願いしますわ」

ぎぃっ。ぎぃっ。

二の姫(恋……ですか。ふふっ。

 黒髪の姫は、何でもあんなにも判る聡明な方なのに。

 それでも己の心だけは上手く量りかねるのですね。

 しかたありません。私だってままなりませんから。

 いえ、仕方の無きことかしら)

ぎぃっ。……ぎっ。

   雑色「なっ! なんだお前はっ!?

    この牛車を知らんわ……う、うわぁぁっ!!

    ばっ! ばけものぉぉぉっ!!」

どだだだだだっ。

二の姫「何事ですっ! 何があったのです!!」

しーん。

二の姫「ぞ、雑色? ど、どうしたのです?」

しーん。

二の姫「誰ぞいないのですかっ?」

かっかっかつん。

二の姫「誰ですっ」

  男「怖がらせちゃって済みません」

二の姫「誰ですかっ。人を呼びますよっ」きっ

  男「妖しいもの……では、あるんですが。

   危害を加えるつもりもご迷惑をかけるつもりもありません。

   えっと、中納言家の二の姫ですよね?」

二の姫「いかにもっ」 ぶるぶる

  男「話は聞いているかと思いますが、

   俺は黒髪の庵に身を寄せている男と云います」

二の姫「へ?」

  男「ですから、男と云います」

二の姫「ほ、本当に男殿なのですか?」

  男「ええ、本当です。お話を伺いたくて」

二の姫「だめです。牛車に触ってはなりませんっ!!」

  男「うう。まいったなぁ。脅かしすぎたかなぁ」

二の姫「――うううっ」

  男「黒髪のことで話が聞きたいだけですって」

二の姫「そのようなことを云う賊など

 簡単に想像がつくではありませんか」

  男「どうしたら信用してくれるんですか?」

二の姫「本当の男殿なら……。そうですね。

 では、黒髪の姫の告白になんと答えたかをご存じのはずです。

 さぁ。云ってご覧なさいっ!!」

男「おい、それどこの罰ゲームだよっ!?」

――夜の都大路

二の姫「こほん。初めまして、二の姫です」

男「男です」

二の姫 じぃっ

男「な、なんですかっ」

二の姫「いえ、人間に見えるのだな、と」

男「はぁ……。人間です」

二の姫「狐狸か、神仙と聞いておりました」

男「ええ。それも正解です」

二の姫「悪びれませんのね」

男「説明は難しい上に長いんですよ」

二の姫「私の家の雑色はどうしたのです?」

男「懐中電灯とバイクのメットにびっくりして逃げました」

二の姫「逃げ……」

男「あ。いや、責めないで下さい。脅かした俺が悪かったので」

二の姫「人を脅かしておいて

 それを謝る狐狸など聞いた事がありません」

男「面目ない」

二の姫「よろしいでしょう。聞きたいこととは何です?」

男「ああ、黒髪のことです」

二の姫「黒髪の姫の……?」

男「なぁんか隠して勝手に一人で決めて

 思い込んでる雰囲気がするんですよ、あいつ。

 一方的に勝手に頑張るやつだから」

二の姫「――」

男「この間から妙に素直で……あやしい」

二の姫「――」

男「だから、それを聞きに」

二の姫「何故私に?」

男「黒髪のやつが、友達が出来たと云ってたから」

二の姫「黒髪の姫……が」

男「和歌に関しては、自分よりも上かも知れない、と。

 一緒に歌集を編纂しているのならば

 気が付く気持ちもあるんじゃないかと思って。

 まぁ、こうじゃないかなーってラインは

 なきにしもあらずではあるんですが」

二の姫「友女房に聞かないのは何故ですか?」

男「それはそれで、卑怯くさくてさ。

 あいつは黒髪の従者だから、云えないことも

 沢山あるだろう? 云いたくても、さ」

二の姫「そうですね……」

男「……」

二の姫「……」

男「どう、かな」

二の姫「……七夕の物語をご存じですか?」

男「織姫と彦星だろう? 年に一度しか会えないっての」

二の姫「織女、です。……彼女は天帝の娘なのですよ」

男「それは知らなかった」

二の姫「これは元々唐の説話です。

 牽牛……彦星は織女の羽衣を盗むのです。

 そして二人はむずばれる。

 羽衣は、真心のに通じ。――つまり恋に落ちたのですね。

 でも、二人は天帝に引き裂かれ年に一度の逢瀬しか

 許されないことになります。しかも、その逢瀬さえ

 七夕の夜に雨が降っていれば妨げられる」

男「……?」

二の姫「とても悲しい話です。

 幾歳、幾星霜、二人はおそらく年に一回の

 逢瀬のみを願い、長い別離の時を過ごすのだと思います」

男「うん」

二の姫「でも、織女がもっともっと

 愚かなまでに誠実であったとしたら?」

男「……」

二の姫「自らの羽衣を盗まれて

 どうしようもないほどの恋に落ちても

 それでも年に一度の逢瀬しか出来ない自分を……」

男「……」

二の姫「そんな自分を彦星に相応しくないと思ったのならば」

男「わかった」

二の姫「……」

男「わかった。すっげー判った。

 すさまじい勢いで了解した」

二の姫「お解りいただけましたか」

男「ああ、判った。でも、それってずいぶんとさ

 傲慢な話だよなっ」

二の姫「怒ってますか」

男「わりとなっ」

二の姫「でも黒髪の姫は、自分で出来る

 精一杯をしたのだと思いますよ」

男「だから余計にだよっ」

二の姫「ふふふっ」

男「なんだよっ」

二の姫「いえ。黒髪の姫に、似ているな。と」

男「めちゃくちゃ信用無いよな、俺」

二の姫「歌集の編纂が終われば、黒髪の姫は尚侍として

 本格的に参内、出仕しなければなりません。

 あの御年にして撰者、そして尚侍ともなれば

 その権力は両大臣をもしのぐかとおもいます。

 そのような政争に男殿を巻き込むのも

 よしと為されなかったのでしょう」

男「そんなのこっちが考えることだろうにさ」

二の姫「はい?」

男「こっちが考えりゃすむことだろうが」

二の姫「――それは」

男「違うのか?」

二の姫「そうですね」 こくり

男「こっちは物の怪なんだから

 内裏の常識なんて関係ないのにさ」

二の姫「神仙というのは人の世に

 関わりを持たぬのかと思ってました」

男「黒髪が特別なだけ。黒髪と、近しい人だけ」

二の姫「大事にされているのですね」

男「いや、おれだってさ。もういい加減

 いっぱいいっぱいで、寄りかかられるたんびに

 ぎゅーってしてぇとか思ったりするだろ

 それが普通だろってなぁ……」

二の姫「?」

男「要するに、次は俺の番って事だ。違うか?」

二の姫「いいえ、まったく違いません。

 どうぞあの頑迷な織女に、

 甘え方というものを教えてやって下さいまし」

――男の実家

がちゃ、かちゃ。……とんとんとんとん。

姉「たっだいまーって、弟。帰ってたんだ」

男「あー姉ちゃん。おかえり」

姉「なにやってんの?」

男「カレー作ってる」

姉「ふぅん」

男「……」

ごり、ごり、ごり、ごり。

姉「コリアンダー?」

男「そう」

姉「何か怒ってるの?」

男「なんで?」

姉「昔から機嫌悪くなるとカレー作るでしょ。あんた」

男「そうかなぁ。そんなことはないよ」

姉「嘘つきなさいって」

男「機嫌が悪いと作るんじゃなくて。

 考え事したい時に作るんだよ。

 時間かかるから、落ち着くんだよ」

姉「ふぅん……。ねぇ、弟」

男「ん?」

姉「爺ちゃんの家さ」

男「ん」

姉「あんたのものだからさ」

男「うん」

姉「もう、あんたも、家持ちだし。

 食ってくだけなら、なんだっていいでしょ?」

男「うん」

姉「別にうちは誰に恥じることもないし?

 睨まれたから困っちゃうような弱みもないしさ」

男「うん」

姉「……」

男「……」

ことことことこと。

姉「ちゃんとチャンスあげたの? 相手の気持ち、考える」

男「うん、ちゃんとしたよ」

姉「なんだって?」

男「両思い」

姉「そっか。あんたロリコンだったのか

  や っ ぱ り な っ !!」

男「なにをいまさらっ」ぷくくっ

姉「ふぅん」

男「でも、ダメなんだって。何か遠慮しちゃっててな」

姉「はぁん。難しい境遇だから?」

男「難しい境遇だから」

ことことことこと。

姉「姉ちゃんのヘルプいるか?」

男「姉ちゃんは、反対しないんだな」

姉「そりゃそうさぁ。まぁ、こう言っちゃ何だけどさ。

 女なんて一生に一度や二度は浚われるのよ。

 願った相手に浚われるなら、本懐でしょ」

男「トラブっても?」

姉「トラブルは浚った男が解決すんのよ。

 それが求婚者の義務でしょうが」

男「求婚に、なるのか。やっぱし」

姉「ビビった?」

男「いや、餌ぶら下げられた気分」

姉「お!」

男「ん?」

姉「なんだよ。弟、やる気あるじゃないか」ばむばむっ

 「姉として嬉しいぞ、おとうとがきちんと浚える男で。

 同時に哀しくてたまらん。ろりこんだからっ」

男「うっさいなぁ。俺だってそりゃ、

 なんていうかさ……。あんだよ、いろいろっ」

姉「ふぅん」 にやにや

男「すぐにじゃないぞ。黒髪だって向こうに仕事が残ってるし」

姉「まぁ、私だって弟のほかに妹が欲しいし?

 黒髪ちゃんだったら、本当にSSクラス妹だしっ」

男「黒髪は、俺のなのっ」

姉「いっちょ前に独占欲かぁ。んぅ?」

男「悪いかよ」

姉「うんにゃ。悪くない」

男「……」

姉「庶民ゴッドのお姉ちゃんが保証したげる。

 それって全然悪くない。だから、ちゃんと頑張るんだよ」





黒髪の姫と恋に落ちた


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2013年5月10日 | 告白体験談カテゴリー:彼女・彼氏との告白体験談

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