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【彼女・彼氏】明日を見つめて 6.佐藤家の事情 【告白体験談】

カテゴリー:彼女・彼氏との告白体験談
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前編「明日を見つめて 5.許婚(いいなずけ)」



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翌朝、浩平は、尿意を催して目を覚ました。

窓からは、カーテンを通してでもかなり明るく陽が差し込んでいる。

隣に彩はいない。部屋を見渡しても彩の姿はなかった。

壁に掛けてある時計を確認すると、9時を回っていた。

『ああ、もう出かけちゃったか』



彩の部屋を出て、トイレに寄り、キッチンに入ると、朝食にハムと

野菜のサラダ、目玉焼きが用意され、脇にメモが残されていた。



『母と出かけてきます。

 お昼までには戻ってきますので、




 朝ご飯を食べて待っていて下さい。

 浩ちゃんは、朝はパンが多いと言っていたので、

 テーブルの上に用意したものを自由に食べて下さい。

 冷蔵庫に牛乳が入っています。

 食べたいものや飲みたいものは、自由に出して

 使って下さい。

                 彩』



一旦、彩の部屋に戻り、洋箪笥に掛けられていた私服に着替え、

布団をたたんで、脱いだパジャマや下着はその上に重ねた。

カーテンと窓を開け換気し、ゴミ箱を覗くと、昨夜の汚れ物は

彩が始末したらしい。

洗面所でうがいをし、顔を洗ってからキッチンに戻り、クロワッサン

をトレイに移し、コ−ヒーを淹れた。

寝起きが異常に苦手な浩平は、体を目覚めさせるのにコーヒーを

飲むことは、習慣になっていた。



ゆっくりと食事を終え、食器類を洗って歯磨きを済ませても、

まだ10時過ぎ。

リビングに移り、朝刊を広げて読んでいたが、そうそうは時間が

潰せない。

ぼんやりとテレビを観ていたら、電話が鳴った。

出ていいものかどうか迷ったが、彩からかも知れないと思い、

5コール目で電話に出た。



「はい。北島でございます」



「あれ、北島の家だよね。あなた、どなた?」



「あ、はい、お家の方が外出中ですので留守番をしていた者です」



「ああ、君、もしかして佐藤君か?」



おとうさんか!? たちまちに緊張した。

「は、はい・・・、そうです」



「彩の父親の寿治です。そうかそうか、昨日は申し訳なかったね。

 なんだい、早速、留守番させられてたのかい?」



「いえ、こちらこそ済みません。勝手にお邪魔していました」



「家内からは聞いてたよ。

 そうだ、丁度いいや。

 明日のゴルフのラウンドが中止になっちゃったんで、

 早めに帰宅できることになってね。

 仲間を連れ帰って、麻雀をしたいと思っていたんだよ。

 君は、麻雀はできるのかな?」



「はあ、まあ並べる程度ですけれど」



「我が家に誘えたのは2人だけでね。

 それなら、もう一人誘う手間が省ける。

 明日は、2時頃には戻れるんで、麻雀に付き合ってくれないか」



「はあ、でも、下手くそですよ・・・」



「なあに、皆たいした腕じゃないから、心配いらないよ。

 じゃあ、宜しく頼むね。

 家内にもその旨、伝えておいて貰えるかな」



「はい。分かりました。お伝えしておきます」



受話器を持っていた手が小さくふるえていた。

背中にも妙な汗をかいた。



『うわ、びっくりした・・・。

 にしても、随分気さくで強引な人だな・・・。

 ハァ・・・。今度は明日、お父さんとか・・・。

 気持ちの整理が・・・』



気分を落ち着かせようと、もう1杯コーヒーを淹れ、緊張と混乱を

収拾している間に、玄関のドアが開き、彩の元気な声が聞こえた。



「ただいまあ。

 浩ちゃん、起きてた? 遅くなってごめんね」

ダイニングに回ってから、リビングに入ってきた。

「よしよし、ちゃんと朝ご飯、食べてたね。

 食べたもの、片付けてくれたんだ。

 そのままにしておいてくれて、良かったのに」



「おかえり。おばさんは?」



「お昼の用意と、浩ちゃん家を訪問するための買物をしてくるって。

 先に降ろして貰っちゃった。

 お母さん、買物がストレス発散だから長いよ。

 私の部屋に行こ」



彩の部屋に移ると、すぐに彩が甘えて来た。

浩平に抱きつき、キスをねだる。

濃厚なキスをしながら、浩平の股間を触ってきた。



「よく眠れた?疲れ、取れた?」



「うん、良く寝た」



「そっか、良かった!

 良く寝れたから?私が来たから?

 おっきくなってきたネ!?」



彩は、嬉しそうにペニスを摩り続けている。

浩平も彩の股間を軽くまさぐる。

「どれ!?」と言って彩を反転させ、膝をつかせ、そのまま上半身を

ベッドにうつ伏せにし、スカートをめくり、パンツを下ろした。

電光石火。

彩は「エッ?ナニ?エッ?」と短く発するのみで、何も出来ないまま、

着衣はそのままでパンツだけを下ろされていた。

その間に、普段は不器用な浩平が、器用に自分のズボンとトランクス

を脱ぎ捨て、下半身のみ露出して、いきり勃ったペニスを彩の陰唇に

あてがい、上下に擦ってそのまま挿れた。



「ヤンッ・・・ア・・・そんな、いきなり・・・アッ・・ンッ」



前戯もないまま、いきなり挿入したが、ヌルンと何の抵抗もなく飲み

込まれるほど、彩の中は潤っていた。

2度、3度、感触を確かめるようにゆっくりと出し入れし、すぐに大きく、

速く、激しく腰を打ちつけ始めた。

パン、パン、パンと彩の尻に打ち付ける音が響く。

左手で彩の腰を抱え、右手の指で陰核を捏ねまわす。

彩は、犯されているような行為に激しく反応し、

「アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ」

と喘ぐ声も、これまでになく大きい。間隔が短い。

すぐに絶頂を迎え、ひと際高く絶叫し、果てた。

浩平は、彩が絶頂を迎える少し前から、ペニスの先端が、狭い空間の

やわらかい壁に挟まれ、圧迫され、擦られる感覚を感じていた。

その感覚がすこぶる気持ちがいい。

彩の子宮が降りて来て、子宮頸部と膣奥のヒダとの間に狭い空間が

生じ、そこにペニスの先が挟まっていくのだろう。

浩平もすぐに射精感が津波のように押し寄せ、彩の腰が砕ける瞬間に

合わせるようにペニスを抜き、急いでベッドに跳ね上がり、荒く呼吸を

しながら彩の顔の前に、はち切れそうなペニスを突き出した。

彩は、まだ朦朧とした表情をしていたが、突き出されたペニスを掴み、

口に咥えて舐めまわした。右手は、激しく短く上下している。

浩平は、勢いよく彩の口に吐き出した。

彩は、少し「コホ・コホ」とむせながら呑み込んでいく。

彩は、下半身をむき出したまま上半身をうつ伏せに、浩平は同じく

仰向けに、二人で荒い息をしながら、暫く、グッタリと横たわっていた。



「ハッ、ハアッ、浩ちゃん、いきなり・・・ハア・・激しすぎ・・・。

 何だか、犯されてるみたいで・・・」



「だって、ハアッ・・・彩が、火を点を着けたんじゃ・・ハッ・・・

 いやだったか?」



「いやじゃないけど、ハア・・・もっと、優しく・・・ハアッ・・・して」



呼吸が整ってきたところで、それぞれに着衣を整え、抱き合った。

彩がキスをして来たが、彩の口の中は浩平の精液の臭いがする。

浩平は、臭いと苦みでむせかえりそうになったが、彩が構わずに

舌を絡めてくるので、拒否も出来ずに、自分の放出したものも一緒に

舐めまわすことになってしまった。



冷静になってきた浩平の頭に、彩の父・寿治の電話の声が響いて

来た。『そうだ、こんなことしている場合じゃなかった・・・』



「そう言えば、彩のお父さんから電話があったぞ」



「えっ、お父さんから? なんだって?」



「明日のゴルフが中止になったから、早めに帰るって。

 で、麻雀に付き合えって言われた」



「すぐに浩ちゃんのこと、分かったの?」



「うん。『君は誰だ』って言われたから、留守番してる者ですって

 言ったら、すぐに 『佐藤君か?』って」



「で、私とのこと、何か言ってた?」



「いや、お母さんから聞いてるって。

 随分とざっくばらんなお父さんだよな」



「そうだけど・・・、それだけ?」



「それだけ。

 2時には帰れるから、お母さんに伝えといてって」



「ふーん、・・・お母さん、どこまで話したんだろうね」



「何だか、すっかり全てを知られちゃってる感じだったけど・・・。

 緊張してふるえちゃったよ」



「そっか・・・じゃあ、明日にはお父さんにも会うんだ・・・」



「そういうことになっちゃったね・・・。

 どんどん、いろいろなことが進んでいく・・・というより、

 彩のお父さんとお母さんに、二人の進む先を決められている

 という感じがするよなあ」



「まあ・・・ね。うちの両親、そういう人たちだから。

 でも、不満?」



「いや、不満ではない。

 俺が望んでいたことなんだから。

 ただ、あまりにも急激に進んでいくから、なんだか夢の中

 みたいで実感が・・・」



「夢じゃない!

 浩ちゃんと結ばれたのは確かな事実だし、

 私の中には、ちゃんと浩ちゃんの感触が残ってるもん。

 そして、これからもずっと一緒よ。

 夢であって、たまるもんですか!」



「・・・そうなんだ・・・よな・・・」



そうこうしているうちに、妙子が帰って来た。

浩平が寿治からの伝言を伝える。



「あらあら、じゃあ明日、うちの人とも会えるわね。

 麻雀を誘われたのは、あなたが、これから長く付き合っていく人

 だと認められたということよ。

 あの人、深いお付き合いが始まる人には、麻雀に誘ってその人の

 性格を掴もうとするから」



三人は、ゆったりと昼食を摂り、午後2時半に北島の家を出た。

妙子は自分の車を運転し、浩平は彩の運転する車に乗り込んだ。



約束の3時少し前、三人が浩平の家に到着した。

浩平の母・美代子が出迎え、一通りの挨拶の後、和室の居間に

通された。客間などと言うものは、県の職員住宅である浩平の家

にはない。

居間の和テーブルの奥に、浩平の父・浩一が座椅子を背に座って

いた。

母・美代子は、父・浩一の向かいに妙子を、その隣に彩を案内し、

お茶の用意のためにキッチンに下がった。

浩平は少し迷ったが、母と彩の間になる位置に腰を下ろした。

父が座椅子に座ったまま挨拶した。

「浩平の父、浩一です。よくお出で下さいました。

 ちょっとばかり足が悪いものですから、ご挨拶にも出ずに

 失礼致しました。

 私ばかり座椅子で恐縮ですが、ご容赦下さい」



妙子が応える。

「いえいえ、浩平さんから伺っております。

 浩平さんとお付き合いさせて頂いております、彩の母で、

 北島妙子でございます。

 お寛ぎのところ、ご無理を言い、押しかけてきてしまいまして

 申し訳ありません。どうぞ、お気遣いなく。

 彩ともども、宜しくお願い致します」



彩が続く。

「北島彩です。初めまして。

 浩平さんとお付き合いさせて頂いています。

 ご挨拶が遅くなりました。宜しくお願いします」

かなり緊張していた。



既に浩平から妙子に語られていた父・浩一の「足の悪い」理由とは。

県・建設局の出先機関に勤務し、公共工事の現場で進捗状況を確認

していた浩一以下3人の立っていたところに、作業を中断していた筈の

クレーン車の滑車が外れ、その滑車が現場を囲っていた鉄製フェンス

にぶつかり、フェンスが崩れ落ちて来た。

浩一は、倒れて来たフェンスの欠片とコンクリートに挟まれ、頸椎と

腰椎の一部を損傷し、特に頸椎の一部は圧迫骨折により、頚髄神経

が損傷し、事故直後は全身麻痺で救急病院に搬送された。

すぐに手術を受け、全身麻痺はほどなく寛解したものの、左半身不随

という状態で、左手、左足が全く動かなくなってしまっていた。

当時としては、最新の治療と懸命のリハビリの甲斐があって左手は

掌の開閉がぎこちないものの動くようになり、左足は杖を使えば

歩けるところまで回復し、約2ケ月半・11週目に退院し、自宅から

通院してのリハビリとなり、更に4ケ月経過後、オートマの自動車なら

運転できるようになったところで、職場復帰した。

現在、特に強い麻痺の後遺症が残ってしまった左下肢に、身体障害

4級の認定を受け、復帰した職場では、設計段階での審査を担当して

いる。



妙子は、浩一を労わるように話しかけた。

「お怪我の方は、大変でしたね。

 今でもまだ、ご不自由なこともおありでしょう?」



浩一は、「なあに、まだ幸運な方です」と意に介していないという風に

返した。

「麻痺が右半身でなくて良かったですし、現場には立てなくなり

 ましたが、ここまで回復して、職場にも復帰出来ましたしね。

 怪我や病気をしたことは、不運ではあるかもしれませんが、

 不幸であるかどうかは、その人の気持ちの持ちようです。

 できなくなってしまったこと、不自由なことを嘆いてばかりいては、

 何も変わらないし、出来る事もできなくなってしまいます。

 後ろ向きに世間を恨んで生きることになれば、そのことこそが

 不幸です。

 でも、健常者と同じようには出来なくとも、それをどうカバーして

 いくか。杖や運動補助の道具も進んできていますし、多少、時間が

 かかっても、健常者と同じように生活できる術を身につけさえ

 すれば、さほど不自由も感じずに済みますし、ちっとも不幸なんか

 じゃありません。

 健常者との違いは、単なる個性です。

 個性ならば、誰でも違って当たり前。

 何も引け目を感じることもありません。

 そうではないですか?」



乗り越えた人であるからこそ言える言葉だと、妙子は思った。



美代子が日本茶とカステラや和菓子などを用意して戻って来た。

「こんなものしかありませんが、どうぞ召し上がって下さい。

 きれいなお嬢さんですね。浩平には勿体ないですよ」

浩一も続く。

「いやいや、本当に。

 こんなに可愛らしいお嬢さんが、浩平なんかとお付き合い

 させて頂いて、宜しいんですか?

 ご両親が、手塩に掛けて育てて来られたんでしょうに」



彩が、浩平の方をチラチラ見ていたが、浩平は誰の話かという風に

素知らぬふりで、何も言わずに聞き流していた。

妙子が応じる。

「とんでもありません。まだまだ、世間知らずな子供で。

 浩平さんのようにしっかりとした男性ならば、

 安心してお任せできます。

 彩本人よりも、私の方が喜んでいるくらいなんです。

 こちらこそ、お礼を言いたいです。

 どうか、宜しくお願い致します」



「彩さんは、4月からは、どうされるんですか?」



「○○女子大の短期大学部に行きます」



「そうすると、ご実家から通われるんですね。

 浩平は、お聞きになっているでしょうけれど、

 4月からは大学に通うのに、東京に行ってしまいます。

 なかなか、会えなくなってしまいますね」



「はい。いつも一緒にいられないのは、淋しいですけれど、

 月に一度くらいは浩平さんのところへ行かせてもらおうかと

 思っています」



ここで、丁度いいと、妙子が切り出した。

「実は、お父様、お母様ににご相談がございます。

 私は是非、浩平さんと彩の交際が順調に進展してくれればと

 願っております。

 ですが、お父様がご指摘された通り、浩平さんは間もなく東京に

 行かれますし、彩は地元に残ります。

 そこに彩は、不安を感じておりました。

 浩平さんの人柄に惚れ込んで交際をお願いしたのは、彩の方です。

 浩平さんは、彩の不安な気持ちを振り払おうと、私に、将来の結婚を

 前提としたお付き合いにしたい。両家が認めたという後ろ盾が欲しい

 と願い出てきました。

 その言葉には、恋に浮かれているわけではなく、彩のために、

 そうしたいという思いが強く感じられました。

 私も浩平さんが相手ならば、娘の恋人として、将来の伴侶として、

 願ってもいないことだと思いましたので、北島家としては大賛成です。

 ただ、二人はまだ学生ですし、交際が始まってから3日しか経って

 いないこの時期に婚約というのは、まだ時期尚早ですね。

 それは、浩平さん自身も言っていましたし、私もそう思います。

 そこで、私からのご提案なのですが、二人はもともと幼馴染で、

 両家が望んだ許婚者であったということにして頂けないでしょうか。

 浩平さんは、間もなく東京で暮らしていくわけですから、少なくとも

 そちらでは、それで通用するでしょう。

 向こうで、浩平さんに思いを寄せる女性が現れたとして・・・。

 これが、彩の心配の、不安の種なのですが、そういう時に、単に

 遠距離恋愛の恋人がいるというよりは、浩平さんには入り込めない

 相手がいると理解し、諦めてくれる可能性が高いと思います。

 二人にとっても、両家の後ろ盾、了解があることで、離れていても

 安心して交際を続けていくことが出来るでしょう。

 もし、彩を認めて頂けるなら、是非にと考えましたが、如何でしょうか」



「北島さんのご主人は、□□電子工業を経営されている方でしょうか?」



「はい。最初に私の方から申し上げるべきでした。

 その通りです」



浩一は、少し考えている風に間を置き、話し始めた。

「それなら、我が家の事情というものもお話ししておいた方が

 宜しいでしょうね。

 事故による私の後遺症など、たいしたことではないとは申し上げ

 ましたが、そうは言いましても、事故が起きてしまった当時は結構

 大変でした」

と言いながら、回想するように話を続けた。

ここからは、妙子も彩も初めて聞く話であった。



事故の処理は、勿論、労災の適用を受け、その間の生活は保障

されてはいたが、事故は、浩平が中学校3年生に進級する直前に

起き、高校受験期を控えていて、浩平は激しく動揺した。

更に、佐藤家では、それ以前から経済的な事情も抱えていた。



浩平が生まれる3年前、浩一は、信頼していた友人の借金の保証人

になったが、友人は、借りた金を持ってどこかへ姿を消した。

結果、浩一と佐藤家には、多額の借金が覆い被さった。

事故が起きた当時は、17年かかって、やっと完済への目処がたって

来たところだった。

食うや食わずの生活が10年以上は続いた。

給料は差し押さえられ、美代子のパートの収入だけが頼りだった。

返済開始当初から暫くは、それこそ、その日に食す米が底をついた

ことも度々だった。

浩平が未熟児で生まれてきたことも、母・美代子の栄養失調と

心労が原因のひとつだろうともいう。

最も苦し時期に、浩平は幼少であったためにそれほどの苦労を感じず

に育ったが、6歳上の兄・浩介は、毎日ひもじい思いを味わった。

「僕が大きくなったら、いつも米櫃をいっぱいにしておくんだ」という

ことが、口癖であった。

兄・浩介は、中学校卒業後に、県内ではあるが地元から離れた

町工場に住み込みで就職し、定時制高校に通った。

我慢強い浩介は、少しでも実家の足しにと働いた給料のほとんどを

実家に送金していたが、体調が悪くとも病院にもかからずに我慢

していたことで、腸の潰瘍性出血で貧血を起こし、暫く入院していた

ことがある。

定時制高校を卒業した後、独身寮には移ったが、まだその工場で

働いており、現在は、主任としてひとつのラインを任されていた。



浩平が保育園に通っている時期、子のない遠縁の親戚から養子に

欲しいという話が持ち上がった。

養子に貰う代わりに、借金の全額とは言わないが、半額程度を

肩代わりするという、佐藤家にとっては有難い申し出であった。

しかし、母・美代子は、頑なに拒否した。

「ひもじい思いをさせるのは可哀そうだけど、誰が何と言おうと、

浩平は私の子供だ。どんなに生活が苦しくても、幼い子供を手放す

なんて、母親として絶対にできない」と。

これは、浩平も初めて聞くことだった。



浩平は、小学校高学年以降は、我が家の事情をよく理解し、

小遣いが欲しいと言ったこともなく、おもちゃは、友達の家に行けば

一緒に遊べることでじゅうぶんに満足していた。本人には、我慢

しているという感覚がなかったから、不満を感じる事もなかった。

中学生にもなれば、ラジカセなど、やはり自分のものとして欲しい

ものが出てくるが、母方の伯母の紹介でビル清掃などのアルバイト

をして小遣いを稼ぎ、欲しい金を親に無心することはなかった。



経済成長が著しい時代であった。

10年、15年と経過すれば、貨幣価値は相対的に下がっていく。

賃金は年功序列で上がっていく。借金生活が10年を超えた頃には、

父・浩一の給与からの差し押さえの割合も相当低下し、貧乏では

あったが、贅沢さえしなければ、喰うに困らなくなってはいた。



何とか、家族がお互いを思い遣りながら借金の返済のめども立ち、

浩平にとっては、高校進学の進路相談が本格的に始まった頃に

起きた父の事故であった。

父からは、高校進学は心配しなくても良いとは言われたが、

大学は無理だろうなと諦め、就職に有利な実業高校を選んだ。

3年生の夏休み明けに、その高校に普通科が新設されることを

担任から聞き、普通科高校でしか学べないであろう勉強もしたくて、

そこを受験することにした。

「まあ、そこのレベルなら問題なく合格できるだろう」という担任の

後押しも支えであった。私立高校を滑り止めに受験しなくて済む。



父が、まだ体の自由が利かなかった約半年間、父の交友関係や

親戚、仕事上の付き合いなど、佐藤家として義理で出席すべき

冠婚葬祭が重なった。

浩平は父の要望で、父の代理として、佐藤家を代表してそのような

場に出席することも度々あった。

貧しかったが、それらの事情が浩平に大人としての世間の接し方を

教えてくれた。



そして、浩平が高校の3年に進級する時期に、みごとに借金は完済

できた。20年が経過していた。

兄・浩介も、「俺が大学に行けなかった分、浩平には大学に行って

欲しい。俺も協力する」と、いくばくかの金を渡そうとした。

両親は、浩介に、「退職金を担保に、銀行から借り入れができるから、

それで入学金と学費くらいは何とかなる。奨学金も申請してみよう。

お前も、そろそろ結婚のための資金を貯めておきなさい」と、浩介の

申し出を断り、浩平に大学への進学を勧めた。



父・浩一が淡々と、静かに、佐藤家のこれまでの事情を話し終えた

とき、彩は涙ぐんでいた。

浩一は、妙子に問うた。

「我が家は、こういう家です。

 彩さんには、これからも浩平のことを宜しくとお願いしたいところ

 ですが、北島家にとっては、けして望まれる家柄ではないのでは

 ないですか?」



「他人にはなかなか、お話しずらい御一家の事情や経緯を話して

 頂いて、恐縮です。ありがとうございます。

 それぞれのご家庭には、それぞれの事情というものがあるもの

 です。何も悩みを抱えていない人や家庭などは、ないのでは

 ないでしょうか。

 借金があったとは言っても、立派に完済されているではありません

 か。それも、ご自身が遊ぶお金欲しさに作った借金ではなく、

 ご友人に騙されてのことです。何も卑下されることではありません。

 借金のことを言われら、我が家が事業のためにしている借金なんか

 とんでもない額です。

 何よりも、お父様がお話し頂いた佐藤家のこれまでの経緯で、

 浩平さんが、彩と同い年とは思えないような大人びた、しっかりと

 した考えをもっている、大人と渡り合っても堂々とした態度で

 いられる理由が、よく分かりました。

 確かに、娘の彩は苦労を知らない世間知らずです。

 だからこそ、しかっかりとご家族と共に、苦労を乗り越えてきた浩平

 さんのような男性に、彩を引っ張って行って頂けるのなら、

 これほど嬉しい、ありがたいことはありません。

 お父様のお話を伺って、益々、娘に浩平さんと一緒にさせたい

 思いが強くなりました。

 許婚の件、是非、宜しくお願い出来ないでしょうか」



そういうことならばと、浩平の両親も納得し、浩平と彩との交際は、

晴れて両家の認めるところとなった。

ただ、彩の父・寿治の意向が、浩平にとっては気がかりではあったが。



世間話に移り暫くして、妙子は彩に言った。

「お母さんは、もう少しお二人とお話しがしたいから、あなたと浩平さん

 とで、お夕飯の買物に行ってきたら。

 お母さんはお話しした後でお暇させて頂くけれど、彩は、今夜は

 佐藤さんのお宅で、お母様に浩平さんの好みのお料理を教わって

 来なさい。

 多少、遅くなっても構わないけれど、夜には帰ってくるのよ。

 浩平さんは、残り少ない貴重な日数なんだから、今夜はお父様と

 お母様に孝行してあげてね」



買物という名目で解放された浩平と彩は、彩の運転する車に乗り

込み、大きなスーパーに向かった。



「浩ちゃん、良かったね、浩ちゃんの御両親に認めてもらえて。

 これで、後は、うちのお父さんだね。

 お母さんが大丈夫って言うんだから、大丈夫よ」



浩平からの反応がないので、訝っていると、大粒の涙が浩平の頬を

ポロポロと伝い落ちて行った。

暫く言葉を発せずに、唇を噛んでいた浩平が呟いた。



「俺に養子の話があったなんて、全く知らなかった・・・。

 苦しいのに、俺を養子に出せば楽になるのに、

 かあさんは、断わってくれたんだ・・・」



彩は、浩平の心情を思い、懸命に涙をこらえた。



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2013年10月30日 | 告白体験談カテゴリー:彼女・彼氏との告白体験談

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