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【マニアック】ファンタジーの巻 【告白体験談】

カテゴリー:マニアックな告白体験談
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「何する気だ!」

 「助ける気だ!」

 説明は後回しだ、時間がない。

 喋ってる暇があれば手を動かせと優先順位を付け、ズボンを掴んで必死の抵抗を続けるロンと力比べをする。あくまで貞操を死守するロンに苛立ちをこらえてゴムが完全に伸びきるまでズボンを引っ張る。

 限界まで引っ張たせいでゴムが弛んでトランクスが垣間見える。

ロンの股間は濡れていた。さっきまで勃起していた股間も萎えてトランクスの中央に涎染みを残すのみだ。尿漏れに似た涎染みが目に飛び込んで恥辱が再燃したか、ロンの頬が鮮やかに上気して目が潤む。

 最前の光景がまざまざと甦る。

 巨大な黒い塊に飛びかかられて押し倒されたロン。狂ったように手足を振りまわして声を限りに抗議するも、ロンにのしかかった犬は一向にどこうとせず、下品な水音をたてて彼の股間を舐め始めた。

 犬科特有の異様に長い舌がべちゃべちゃ音たててズボンの股間を舐め回す。

 涎に濡れそぼった股間には濃厚な染みができて、ズボンを押し上げる膨らみで生理的反応を示し始めてるのがわかった。

 非常に倒錯的かつ扇情的な光景だった。

 上腕が鳥肌立つ異常さ。喉の奥で閉塞した嫌悪感は嘔吐の衝動へと膨張した。誰もが目を逸らしたくても逸らせない葛藤と戦いつつ、好奇心と欲情と嫌悪とが綯い交ぜとなった表情を貼り付けて、ロンが犬に犯される光景を凝視していた。ロンが金切り声で叫べば叫ぶほど、目に懇願の色を浮かべて周囲に助けを乞えば乞うほどに犬は興奮した。放尿せんばかりに狂喜していた。犬は、ロンに欲情している。交尾の相手にロンを選んで今まさに挿入しようとしている。

 瞬間、僕は動いた。

 黒い塊が急激に近付いてくる。違う、近付いてるのは僕だ、僕が距離を詰めているからそう錯覚するのだ。

 次第に大きさを増す黒い塊へと砂を蹴散らし猛然と疾駆、全速力で走りに走って跳躍。助走の勢いのままに飛翔、衝突の威力を増して犬に激突。衝撃。きゃひん、きゃひんという哀れっぽい鳴き声を聞いた。




 「なんてことだ、動物虐待だ!」と所長が激怒して砂に倒れ伏せた犬に駆け寄るところが見えた。衝突の衝撃で跳ね飛ばされたのは犬だけではない、僕もまたバランス感覚を失いロンに覆い被さるように倒れた。 

 

ぐずぐずしてる暇はない。

 眩暈が回復するのを待たずに顔を起こし、ロンのズボンに手をかけ下げおろそうとすればしぶとい抵抗に遭う。ロンが赤い顔で何か喚いているが、今は彼と議論する時間も惜しい。とにかく一刻も早くズボンを脱がさねばならない。現在の状況では何よりロンのズボンを脱がしてできるだけ遠くに放ることを優先するのだ。

 「脱げた!」

 ロンの手をふりほどき、一気にズボンを脱がす。

ロンの顔にしまったという表情が浮かぶが、遅い。トランクスの股間に恥ずかしい染みを作ったロンの下半身からズボンを強奪した僕は、うるさく吠えるロンに背を向け、大きく腕を振りかぶる。

 「よし」

 ズボンの飛距離と落下地点に満足した僕に、ロンがすさまじい剣幕で食ってかかる。

 「よしじゃねえ、次はお前の番だぞ!?お前が俺のズボンひん剥いてるあいだにほら……っ、」

 憎悪に濁った唸り声が、低く、地を這うように流れる。

 「きやがったぜ、バター要らずが!」

 僕の肩を掴んだ手が強張る。ロンの表情が恐怖に凍りつく。唸り声は背後から聞こえた。最悪の想像が徐徐に形をとり始めたのを意識しつつ慎重に振り返れば、そこに犬がいた。最前、僕が体当たりではねとばした犬だ。裂けた口腔から真珠の光沢の犬歯を覗かせ、無駄なく引き締まった四肢に殺気を漲らせて僕らを威圧する。獲物を仕留め損ねた屈辱か交尾を中断された憤怒か、猟犬から狂犬へと変貌した漆黒の犬が姿勢を低くして獲物に狙い定める―……

 「鍵屋崎逃げろ、今度こそ食われる!冗談じゃねえ、食うならまだしも犬に食われるなんざごめんだ!俺は半分は中国人だ、俺の半分にはろくでなしの親父の血が流れてるからだから犬鍋だって食えるさ!!知ってるか赤い犬が美味いんだとさ、いちばん脂のって身がしまってるんだとさ!凱の子分の中国人が食堂でしゃべってたの前に聞いたことが、」

 恐怖と混乱のあまりロンが意味不明なことを口走る。どうでもいいがうるさい、耳のそばで喚かないでほしい、僕の鼓膜は君と違って繊細にできているんだからと顔を顰める。

 倒れた際に目に砂が入ったのか、不安定によろめきながら徐徐に犬が近付いてくる。

 「たかが囚人の分際で可愛いハルに手をあげるとは言語道断だ!ハルよ、遠慮はいらない。その少年を裸に剥いて犯してしまえ、公衆の面前で交尾して人生最大の屈辱を味あわせろ!」



「鍵屋崎、逃げろ!そのままそこにいれば君は酷い目に遭う、ロンを連れて早く逃げるんだ!」

 但馬所長が熱弁する。看守に拘束された安田が必死な形相で促す。

 「畜生腰が立たねえよ、逃げられねえよっ!」

 ロンの顔が焦燥に歪む。何度も立とうとしては失敗して砂に埋まる不毛なくりかえし。砂を掻いて掻いて膝を叱咤して何とか立とうとしても、腰を上げるなり膝が砕けて尻餅をつく。

 「鍵屋崎お前だけでも逃げろ、できるだけ遠くへ行け!できんだろそんくらい、俺助けに走ってきたときスピードならバカ犬が来る前に余裕で距離稼げるよ!だから」

 「ロン、心外な発言は慎んでくれないか。ホモサピエンスの最高傑作にして最終進化形、IQ180の天才たるこの僕が食肉目イヌ科イヌ属の四足動物に頭脳で負けるはずないじゃないか」

 僕の計算が正しければ、僕らは指一本動かすことなくこの窮地を切りぬけられる。いくら犬が賢くても人とは比較にならない、霊長類の知恵に勝りはしない。動揺するロンを片手で制し、犬と対峙。

 眼鏡越しに鋭利な視線を向ければ、犬の唸り声がますます険悪になる。 

 「いけ、ハルよ!!」

 それが合図だった。飼い主の命令に忠実にハルは走り出した。砂煙を巻き起こして猛然と疾駆するハルを睨みつけた僕は、ロンをこれ以上動揺させないよう、努めて平静な表情で数を数える。いち、に、さん…

 白熱の太陽を背に、ハルが跳ぶ。

 「!?」 

 そして、だれもが予想しない出来事が起きた。きたるべき衝撃を予期し、固く目を瞑り僕の懐に顔を埋めたロンが、空気の変質を察しておそるおそる瞼を開ける。

 こみあげる勝利の笑みを抑え、呟く。

 「犬の嗅覚はヒトの数千から数万倍に達する。これは匂いを感受する嗅細胞がある部位―嗅上皮というが―が、ヒトの場合3-4平方センチなのに対し18-150平方センチあるからだ」

 僕らの手前で方向転換した犬は、脇目もふらずに別方向へと走り去っていった。怒りも目的も忘れ、ただ本能が赴くままに犬が走り去った場所にはズボンが落ちていた。

 激しくしっぽを振りながらズボンにとびかかり、鼻腔でポケットを探り当て、匂いを嗅ぎ出す。

 ズボンの尻ポケットに鼻を突っ込み、執拗に匂いを嗅ぎ出した犬を遠目に眺めて付け足す。





「チョコレート中毒を知ってるか?人間が好む食べ物でも犬にとっては猛毒になる場合がある。犬にとってはチョコレートがそれで体重1kgあたりの致死量は250〜500mgで、仮に食した場合は嘔吐・下痢・多尿・興奮・発熱・運動失調・けいれん・腹痛・血尿・脱水などの症状を呈する。人体に作用する麻薬にたとえればわかりやすいか?犬にとってのチョコレートとはつまり、猛毒であると同時に興奮剤でもあるのだ」

 三日前の演説時から但馬の犬を観察していてわかった、チョコレート中毒になっていると。どこか様子がおかしいのもそのせいだ。飼い主の顔のチョコレートにむしゃぶりついたのが証拠だ。

 「思い出せ、ロン。リードから解き放たれた犬が真っ先に君に襲いかかったのは君に一目ぼれしたからじゃない、『匂い』を辿ってきたからだ。君のズボンには茶色い染みがあってかすかに甘い匂いした」

 「あ」

 漸くロンが理解する。眼鏡のブリッジを押さえながら説明を続ける。

 「チョコレートの匂いだ。あの犬はチョコレートの匂いを辿って君に襲いかかったんだ。ならばズボンを脱いでできるだけ遠くに投げればいい、実に単純明解で合理的な帰結だ。最後に付け加えるならば、犬には血の匂いに興奮する習性もある。今朝見た時からそうやってずっと腰をおさえてるところから推測するが、君はまたレイジに抱かれたんだろう?あの犬は肛門からの出血を嗅ぎつけ」

 「ズボン脱がした理由はよーくわかった、だからその先は言うな!」

 ロンに口を塞がれる。説明を中断された僕の視線の先では但馬が怒りに震えてうなだれていた。そのさらに向こうではちぎれんばかりにしっぽを振って犬がズボンと戯れていた。

 唐突に但馬が歩き出す。

 軍人めいて律動的な歩調で砂漠を踏み越えて犬に接近、柔和な口調で話しかける。

 「ハルよ、ズボンなど食べても美味くなかろう。動かない獲物など退屈だろう」

 熱に浮かされたように呟きながら背広の内側に手をやり何かを取り出す。その「何か」に目を凝らす。鞭。但馬の手に握られていたのは、細い鞭だ。

 奇妙に不均衡な笑みを浮かべて犬に歩み寄った但馬が、風切る唸りをあげて鞭を振り下ろす。

 「!」



鋭い音が響き、ギャラリーが反射的に目を瞑る。

 「ハルよ、まだ囚人狩りの途中だ。私が科した義務を放棄すれば折檻するぞ。可愛いお前を鞭打つのは胸が痛むが仕方ない、家畜どもの手前示しがつかんからな。大丈夫だ、傷は舐めて癒してやる。とにかく今は囚人狩りに全力投球して私を楽しませてくれ。くれぐれも私の威厳と威信を損ねるような軽率な行動はとらないでくれ。ハルよ、お前の使命は囚人狩りだ。群れを腐らす元凶たる無能な家畜を狩り出すのがお前の使命だ。さあ、ショウを続けろ。私の前で囚人を犯して殺して食い荒らして楽しませてくれ。役立たずの家畜を何匹殺したところで罪にはならいからな」

 続けざまに鞭が振り下ろされ、犬が鳴く。地面すれすれに頭を垂れた絶対服従の姿勢。但馬はギャラリーの存在を意識しつつ狂ったように鞭を振るった。

 冷淡な無表情のままに眼光だけを爛々と輝かせ、降参の姿勢をとったドーベルマンに容赦なく鞭打つ所長の姿に、看守も囚人も戦慄する。現場に居合せた誰もが弟をも上回る但馬の狂気に圧倒されていた。

 僕は我知らずロンを抱く手に力を込めた。一度去った危機が再び訪れる予感。僕の腕の中でロンが愕然と目を見開く。

 犬が、ゆらりと立ちあがる。

 さんざん鞭打たれ傷付いた悲惨な姿で脚を踏ん張り、喉の奥で威嚇の唸り声を泡立てている。漸く溜飲をさげて鞭を下げた但馬が、促すようにハルの頭に手を置く。

 「お前が仕留めるべき獲物は、あそこだ」

 但馬の片腕がゆるやかに弧を描き、鞭の切っ先が僕とロンをさす。口腔に生唾が湧く。ロンに肩を貸して立ち上がろうとしたが、砂に足を取られて動けない。仮に自由に動けたとしても僕らが逃走を図った瞬間にハルが襲いかかるだろうと理解した。

 「仕切り直しだ。今度は上手くやれ。お前なら必ずや愚鈍な家畜を仕留めることができる。私が見込んだ優秀なお前なら必ずや交尾を成功させ後世に子孫を残すことができる。血統書付きの子を孕めるんだ、彼らも光栄だろう」

 「獣姦で孕むわけがない以前に僕らは男だ!」

 冗談じゃない。ロンの腰に手を回し、立ちあがりしなに但馬が合図をだす。刹那、周囲の看守が一斉にとびかかり僕とロンを引き離す。

 「はなせっ、さわんじゃねえ、鍵屋崎!」

 「所長やめてください、こんなバカなこと……これは躾ではなく虐待だ、これ以上は放置できない!」



「可愛い囚人が犯されるところを地に這いつくばって見ていたまえ副所長」

 ロン、安田、但馬、三人の声が上空で交錯する。看守に腕を掴まれたロンが僕へと手を伸ばし何かを叫び、地に這わされた安田が普段の冷静さをかなぐり捨て僕を呼ぶ。僕はその場にへたりこみ、こちらに寄ってくる。ドーベルマンが加速、黒い残影と化して急接近。凶暴な咆哮が耳に―「!?っ、」

 逃げようとした。踵を返し足を縺れさせ、すぐまたバランスを持ち直し走りだそうとして、背中に衝撃。遅かった。何とか身を捩り仰向けになれば、上にドーベルマンが乗っていた。

 裂けた口腔から滝のように涎を垂れ流した犬が、僕の首筋に顔を埋める。 

 「イヌ科のくせに下克上とは生意気だ、イヌ科はイヌ科らしく鎖に繋がれていろ!」何とか犬を押しのけようと奮闘するも、発情した犬相手ではむずかしい。びりびりと布の裂ける音が響き、引き裂かれたシャツの下から素肌が覗く。 

 犬が僕のシャツに噛み付いたのだ。鋭く尖った犬歯が肉に埋まる光景を想像し、ぞっと鳥肌が立つ。犬の頭を押さえるのに必死でシャツの裂け目から露出した肌を隠す余裕もない。かぶりを振って暴れるたびに残りの布が裂けて貧弱で肉の薄い肢体があらわになる。

 犬にのしかかられ、半裸同然で暴れる僕を囲んで囚人が口笛を吹く。

 「おもしれえ見世物だ。ヤッちまえ犬っころ、生意気な親殺しにケダモノの精を注いでやれ!」

 「犬のモンはでけえってゆーから売春班上がりでも満足できるだろうさ」

 「獣姦なんて新鮮だねえ」



「俺もガキの頃ニワトリとヤッてたぜ。卵がぽろぽろでてくる穴に入れられねえ道理はねえだろ」

 「羽がむしれて後片付け大変そうだな」

 「ヤッたあとは絞め殺して食うんだよ」

 「リサイクルだな」

 かまびすしい野次が乱れ飛ぶ中、僕は必死の抵抗を続けていた。犬に犯されるなど冗談じゃない。僕はもうこれ以上汚れてサムライに嫌われたくない、彼の誤解をとくためにも何としても無事に生き延びねばならないんだ!

 「ひっあ……」

 喉が仰け反る。熱い涎が首筋をしたたり、胸板に筋をひく。獣臭い息から顔を背ければ、破けたシャツを羽織った薄い体と、僕に跨って腰を振る犬の姿がとびこんでくる。犬は勃起していた。挿入の準備は万端だ。あんな、あんな醜悪な性器を中に入れられるのか?どんな病気をもってるかも知れないのに。

 「せめて狂犬予防の注射をうってこい、ジステンパーやパルボウイルス感染症や犬パラインフルエンザや犬コロナにかかっているかもしれないじゃないか!犬に病気を伝染されるのはお断りだ、そんな死に方はっ……ふ、あ」 

 腕の力が徐々に弱まってくる。上にのしかかる犬の重みが増す。だめだ、限界だ。腕が次第にさがってくる。異様に長い舌が僕の体をしつこく舐め回す。涎を塗られた肌が透明に濡れ光る。熱い吐息がかかるたびに腰が疼いて理性が蒸発していく。大勢が見てる前で犬に犯されるなど冗談じゃないと頭は拒んでいるが、抵抗に疲れた体は屈辱を受け入れようとしている。

 ここまでか。

 腕が、砂の上に落ちた。

 僕一人の力で犬をどかすのは無理だ。諦念して目を閉じた脳裏にサムライの顔が浮かぶ。今朝別れてきた時のままの仏頂面……犬と交わった僕をサムライは軽蔑するだろうか……

 その時だ。

 「すぐるに手をだすな!!」

 十ヶ月ぶりに、本名を呼ばれた。

 あんまり久しぶりだったから自分でも本名を忘れかけていて、呼ばれた瞬間に夢から覚めた心地がした。犬に跨られた僕の視界に飛び込んできたのは、安田の姿。看守の拘束をふりほどき、背広の裾を翻し、自分の身もかえりみずに駆けて来る姿―……

 衝撃。何が起こったのかわからなかった。体が後ろへふっと飛ばされたのだと気付いた時には、もう格闘が始まっていた。安田が体当たりで犬にぶつかり僕の上から突き落とし、そのまま一人と一匹がめまぐるしく縺れ合う。





交尾を中断されて凶暴化した犬は鋭い犬歯を剥いて喉を狙う、何度となく喉めがけて襲い来る口腔をすれすれで避けながら叫ぶ。

 「囚人を守るのが副所長の義務だ、こんなふざけたお遊戯私は認めん、断固拒否する!たとえあなたが所長の地位にあろうが物には限度がある、これ以上鍵屋崎に危害を加えるというなら」

 「どうするというんだね」「私が相手になる!!」

 仕立ての良い背広を砂まみれにし、オールバックをぐちゃぐちゃに乱し、眼鏡のレンズに犬を映した安田が戦線布告。飼い犬と部下とが傷だらけで死闘を演じるさまを見下ろし、所長が哄笑をあげる。

 「面白いではないか安田くん、ならば相手になってもらおう、ハルの性欲処理係に君を任命しよう!」

 安田の顔が絶望に歪んだ瞬間を見逃さず、ハルが襲いかかる。安田が殺される。跳ね起きた僕は、尻ポケットに手を突っ込み、レイジに渡しそびれていた黄金の玉を掴む。

 「安田から離れろ!!」

 全力の投擲。勢い良く腕を振りかぶり、犬の鼻面にひと掴みの玉を投げ付ける。鼻面に玉の直撃を食らった犬がきゃひんと一声鳴いて安田から離れる。

 砂の上に無数の玉が散らばり、陽光を弾く。静流と別れたあとは放心状態でレイジの房に寄るのを忘れていて、それから何となく返しそびれていたのが役に立った。

 犬と入れ違いに安田に駆け寄り助け起こし、背広の砂を払ってやる。

 「自己犠牲精神に酔うのは結構だが実力が伴わねば無謀だ、僕を救出したところであなたが危機に陥ったらプラスマイナスゼロで事態が進展しないだろう、そんなこともわからないのか手のかかる大人だな!」

 「うっ……」

 安田が小さくうめいて起き上がろうとして、僕の肩越しに何かを目撃した目が見開かれる。背後に忍び寄る獣の気配。くそ、しつこい!安田を抱き起こしたまま振り向いた僕は……

 「ぎゃあああああああああああああっああああああああっ!!?」

 言葉を、失う。

 さっきまで死に物狂いで安田を襲っていた犬が、手近な囚人に標的を転じて、その股間に食いついたのだ。思いきり。怒りに我を忘れて無差別攻撃に走ったものらしい。犬を股間にぶらさげたまま悶絶する囚人には見覚えがある。売春班に僕を訪ねた最初の客、毎日のようにいやがらせをしてくる少年だ。





ズボンの股間に真っ赤な染みが広がっていく。

 凶暴に唸りながらズボンの股間に食いついた犬はまだ離れない、我に返った看守たちが「こら、離れろ!」「離れろよバカ犬!」と罵っても言うことを聞かない。僕と安田は互いに寄りかかって無残な光景を見つめていた。看守に押さえ込まれたロンの顔は恐怖に引き攣っていた。

 「やめたまえ、その囚人から離れろ!」副所長の矜持を取り戻した安田が力づくで犬を引き剥がそうと腰を上げる。だが、安田の到着を待たずに看守数人がかりで犬は引き離された。

 いまだ興奮冷め遣らず唸り続ける犬の口腔から、赤い涎がぼたぼた零れる。

 この世のものならぬ絶叫が轟き渡る。

 「睾丸、食いちぎりやがった……!!」

 囚人が数人、手で口を押さえて蹲る。血の匂いに酔って嘔吐する者がいる。

 片方の睾丸を食いちぎられた少年は、口から白濁の泡を噴き、白目を剥き、ショック症状の痙攣を起こしていた。

 早く処置せねば命に関わる。

 「安田、ジープを運転しろ!定時にならねばバスはこない、いま怪我人を運べるのはあなたが乗って来たジープだけだ!後部座席に彼を収容して車をだすんだ、はやく!」この場で医学の知識を持っているのは僕だけだ。深呼吸で気を落ちつかせ、囚人と看守の狂乱の中を歩いて怪我人の傍らに膝をつき、応急処置をする。ちょうど服が裂けていたのが役だった。即席の包帯を作って血の流れを塞き止めつつ安田を促せば、嫌味ったらしい口調で但馬が割ってはいる。

 「まさか『あれ』を車に乗せるのかね。座席が血で汚れてしまうではないか。しかも後部座席とは……運転手の君はともかく、私とハルはどこへ座ればいい?」

 飼い犬が囚人の睾丸を食いちぎったというのに、罪悪感などひとかけらなど感じてない晴れやかな顔だった。いや、そればかりか……愉悦に酔ってさえいた。最初に狙いを付けた獲物とは違うが、飼い犬が見事家畜を仕留めるところを見て機嫌をよくしたらしい。



今にも所長に殴りかかりそうに安田のこぶしがわななく。眼鏡越しの目で憎悪が爆ぜる。

 「……責任はとります」

 「たのしみだね」

 苦汁を呑んで決断した安田に所長が薄く笑みを浮かべる。それきり所長のほうは見ずジープに飛び乗り、看守に的確な指示をだして少年を後部座席に横たえる。 

 「間に合ってくれよ」

 切迫した横顔で安田が言い、ハンドルを握る。低いエンジン音とともに盛大に砂煙が舞い上がり視界を覆う。怪我人の血で手を汚した僕は、呆然とその場に立ち竦み、彼方に去っていくジープを見送る。

 「やれやれ、彼が帰ってくるまで我々は待ちぼうけか」

 怪我人を乗せたジープを見送り、犬の頭を撫でながら所長がつぶやく。

 返り血にまみれたドーベルマンが飼い主を仰いで吠える。何度も。何度も。何度も何度も何度も何度も何度も。

 「よーしよし、ハルはお利口さんだあ。群れの中から無能な家畜を見つけ出し去勢までしてくれるとは、お前ほどよく出来た犬は世界中さがしても他にいない。忠犬ハルとはお前のことだ。さっきは鞭でぶって悪かったな、痛かったろう?」

 但馬がハルを舐める。犬の頭を抱え込み、鞭打たれて血が滲んだ傷痕に何の抵抗もなく舌をつける。

 「なんて素晴らしい犬だ、世界最高の犬だ、私が心を許したただ一匹の友であり伴侶であり奴隷であり息子であり弟の身代わりだ。そうさ、だから弟の名をとってハルと名付けたんだ。お前はあの愚弟とは比較にならない利口な犬だが虐げられて許しを乞う時の目つきは瓜二つだ!!ああ、お前らときたらなんて愛らしい生き物なんだ!!」

 狂った哄笑が響き渡る中、嫌悪の表情でロンが吐き捨てる。

 「犬に弟の名前つけるなんざ正気じゃねえ。完璧イカレてやがる」

 「同感だ」

 血で汚れた手を見つめ、僕は深く頷いた。





おわり



出典:痛(。・_・。)風

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2013年7月22日 | 告白体験談カテゴリー:マニアックな告白体験談

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